
言語聴覚士のツバメです。訪問リハビリの仕事で、在宅介護のご家庭をまわっています。



最近、父親が痩せてきたのが気になります…



結構食べてるはずなのに、母の足が細くなってきた。
高齢の親を介護していると「ちゃんと食べてるのにどうして痩せていくんだろう?」という疑問を持つことがないでしょうか。
この記事では、高齢者特有の低栄養の原因と、日々の食事で手軽にできる栄養バランスの整え方を解説します。食欲アップの工夫やおすすめの食品も紹介しますので、参考にして下さい。
高齢者が低栄養に陥りやすい理由


高齢者が低栄養状態になりやすいのは、年齢を重ねるとともに「体」や「生活環境」が変化するためです。食事量が減る、消化吸収が悪くなる、また一人暮らしや食事の準備が困難になることが主な理由です。
食事量が減っている場合は痩せる理由がわかりやすいですが、消化吸収が悪い場合など理由がわかりづらいまま痩せていくこともあるんです。
高齢者が低栄養になりやすい理由
- 食生活に問題がある
- 歯や口腔器官の問題
- 消化機能の問題
- 飲み込みに不安がある
それぞれを詳しくみていきましょう。
食生活に問題がある
高齢者は若い頃と比べて食欲が減退します。昔のように食べているようでいて、実は一食あたりの量が少なくなっているかもしれません。
また、高齢者は調理へのやる気が出ないことも多いです。ひとり暮らしの高齢者世帯や、老々介護状態のご家庭では「3食レトルト食」というようなケースも珍しくありません。そのことに本人達は問題なく感じています。



リハビリで訪問しているご家庭でも、何年間も「3食コンビニの冷凍食だけ食べている」などのケースがあります。
調理が面倒なのでついつい簡単な食事に偏りがち。それが低栄養の原因に。離れて住む家族が気づいた時にはすでに低栄養状態になっていることもあります。
胃腸の機能の問題
高齢になると消化器官の働きが低下します。これにより、若い頃と同じだけの栄養を摂取していても、体が十分に栄養素を吸収できなくなります。例えば鉄分やビタミンなどです。
このため、食事をしっかり摂っていても体調が優れないと感じることがあるかもしれません。消化に良い食材を選び、効率的に栄養を吸収する工夫が求められます。



訪問リハの利用者さんでも、食事量は十分で内部的な出血もなし、それでも貧血が続いているという方がいました(70代後半)。
鉄分が吸収されづらいのだろうとドクターがコメントしていましたね。
歯や口腔器官の問題
歯が悪かったり、少なくなっていると良く噛んで食べることが難しくなります。あまり噛んでいない食物は消化が悪くなってしまうので、間接的には「痩せて行く原因」になってしまいます。
前述の通り、高齢者はそもそも消化器官のの働きが低下しているので、よく噛んでから食べることは重要。この場合は歯科治療をするか、食事の形態を変えるなどの対応が必要です。
歯に問題があって食事量が減る場合の対処
- 歯科治療をする(外出しづらいときは訪問歯科もあります)
- 食事を一口サイズなどに切っておく
- 柔らかい介護食を提供する
飲み込みに不安がある
高齢になると、どうしても食事でムセやすくなります。飲み込みに関連する筋力が低下したり、姿勢が悪くなったりするからです。
そういった「飲み込みへの不安」がある場合も、無意識に食事量が減っていく傾向にあります。



例えば「お水」でムセやすい人の水分摂取量は無意識に減ってしまいます。夏場には脱水症状になることも。
飲み込みに不安がある場合の対処
- 飲み込みやすい介護食にする
- 水分はとろみをつける
食べているはずなのに栄養が足りない状態とは?


食事量が減ってないし、バランス良く「食べている」と思えるのに、実は栄養が足りないという高齢者も多いです。これは、特定の栄養素が十分に摂取されていない状態。いわば栄養の偏りですね。
例えば、タンパク質やビタミン・ミネラルが不足すると、体に必要な栄養が行き渡りません。偏食などが原因で食事のバランスが悪い場合、特定の栄養素が不足しがち。そうすると、食べているはずが痩せていくというような状態が続いてしまいます。



特に「タンパク質」は筋肉を始め、さまざまな体の部位の材料になります。不足すると痩せやすくなってしますます。
偏った栄養状態が引き起こす健康リスク
偏った栄養状態は、高齢者にさまざまな健康リスクをもたらします。例えば、骨密度の低下による骨折リスクの増加、免疫力の低下による感染症のリスク、さらには認知能力の低下を招く恐れもあります。
また、筋力が衰えることで歩行が困難になり、生活の質が低下することも考えられます。したがって、高齢者は日常の食事からしっかりと栄養を摂取し、意識的に健康を維持することが大切です。
高齢者が栄養を確保する為の方法


高齢者にとって、栄養バランスを保つことは非常に重要です。
バランスの良い栄養を確保するためにはどのような方法があるのでしょうか?
例をみていきましょう。
手軽で栄養価の高い食品を摂る
手軽に栄養を摂れる食品を上手に取り入れるのはとても良い方法です。不足しているであろう栄養素含んでいる手軽な食材を知りましょう。
例えば、豆腐や納豆はタンパク質やカルシウムが豊富です。次に、卵は調理が簡単でありながら、タンパク質やビタミンD、ビタミンB群を豊富に含んでいます。
ヨーグルトやチーズも、手軽にビタミンDやカルシウムを補給するのに適しています。また、野菜ジュースやフルーツでもビタミンを手軽に摂取できます。
手軽な食材 | 含まれる主な栄養素 |
---|---|
豆腐・納豆 | タンパク質、カルシウム |
卵 | タンパク質、ビタミンD、ビタミンB群 |
ヨーグルト・チーズ | ビタミンD、カルシウム |
野菜ジュース・フルーツ | ビタミン各種 |
サバ缶・ツナ缶 | タンパク質、オメガ3脂肪酸、ビタミンD |
サラダチキン | タンパク質、ビタミンB群 |
枝豆 | タンパク質、ビタミンC、葉酸 |
バナナ | ビタミンB6、カリウム |
市販の商品で栄養量を増やすアレンジ
市販の商品で栄養アップする方法もあります。
例えばMCTオイルをサラダなどにかけたり、飲み物に混ぜる方法が有効です。これは中鎖脂肪酸という体によい油で、気軽にカロリーを補えるもの。訪問リハの現場にいる管理栄養士さんもお勧めしています。ただし、加熱には適しません。
MCTオイルは手軽なカロリーアップの定番
チューブでカロリーアップするようなものもあります
下記の商品は、味噌汁に入れたりおかずに混ぜたりしてカロリーアップをできるペーストです。訪問先のご家庭でも、食が細い方に使用したことがあります。どうしても多少は味が変化してしまうので、少量ずつ試して本人の受け入れがよいかを見極めましょう。
また、メイバランスなどをはじめとする補助栄養(栄養剤)も有効です。少量で多くの栄養を摂取することができます。
補助栄養



このような栄養を摂取することで、足の筋力がアップしてきたケースなど何度も経験しています。
食欲を増進させるための方法


高齢者が食事を楽しむためには、食欲を増進させる環境と方法が大切です。
不調や環境により食欲が低下する場合がありますが、少しの工夫で改善できることもあるからです。以下でその具体的な方法についてご紹介します。
食事環境の整備と工夫
食事環境は食欲に大きく影響します。
明るくリラックスできる場所で食事すると、気分が良くなり食欲が湧いてきます。食事の時間になるとルーティンに沿って行動するなど、習慣化することも環境を整える一環です。



認知症などの病状に適した環境づくりも重要です。例えば注意が散漫になる場合、テレビを消すなどの工夫をして集中しやすい環境をつくりましょう。
介護用食器の活用
介護食器を利用すると、食事がしやすくなります。
例えば、持ちやすいグリップのついた箸やスプーン、多機能のフォークなどは、手の動きが難しい高齢者にも安心です。器も軽くて滑りにくい素材のものを選ぶといいでしょう。
これらの工夫は食事中のストレスを軽減し、結果として食欲の増進に繋がります。
別記事で詳しく解説してます




味覚の変化に対応する工夫も大事
年齢を重ねると、味覚が変化することがあります。
これにより、今まで好きだった食べ物があまり美味しく感じられなくなることも。味付けを工夫することで、再び食事への興味を引き出せます。
例えば、レモンなどの酸味を加えると、唾液の分泌が促進されるなどの効果も期待できます。食欲をそそるために香辛料を使ってみたりすると良いでしょう。



また、料理に彩りを添えることも重要です。視覚から食欲が刺激されます。
高齢者は低栄養になりやすいので対策をしよう


高齢者が低栄養に陥りやすいもの。その原因としては、食欲不振や内臓の栄養吸収効率の低下などが考えられます。食べてるはずなのに…と思う場合は栄養バランスの見直しなど行いましょう。
高齢者が栄養バランスを整えるための対策はあります。まずは、ビタミンやミネラルを意識した食品を選ぶことが大切。栄養を増やすためのメニューアレンジや補助栄養も試してみてください。