
訪問STのツバメです。在宅リハビリの分野で働いています。
今回のテーマは誤嚥を予防する姿勢について。
誤嚥(ごえん)は、特に高齢者にとって深刻な健康問題の一つです。誤嚥が原因で肺炎になってしまう、誤嚥性肺炎は高齢者の死因としても多いからです。
この記事では在宅介護の分野で働いてきた言語聴覚士としての視点から、誤嚥予防に効果的な姿勢について詳しく解説します。
高齢の親の介護を考えている人や、すでに介護を開始している人の参考になると幸いです。この記事の内容を参考に、安心して食事を楽しめる環境を整えてくださいね
誤嚥予防に重要な基本の姿勢


誤嚥(ごえん)とはは食べ物や飲み物が誤って気道に入る状態を指し、高齢者にとっては肺炎を引き起こす原因となることが多いです。
そして、正しい姿勢で食事をすることは、誤嚥の予防に欠かせなせい要素です。積極的に姿勢を改善することで、誤嚥の可能性を減らすことができます。
それでは正しい姿勢についてみていきましょう。
椅子で食事するときの姿勢
椅子で食べる姿勢の基本
- 椅子にしっかり深めに座る
- 足を床につける
- 顎は軽く引くようにする
- 背筋は自然に伸ばす


椅子で食事をとる際は、まず椅子にしっかりと座り背筋を自然に伸ばしましょう。足全体を床につけ、骨盤を安定させることで、上半身が自然と正しい位置にきます。
意外と重要なのが顎の角度です。食事中は顎を引き気味にするのが良いとされています。解剖学的な観点から、飲み込みの運動がしやすい姿勢だからです。
高齢者は腰が曲がっていたりする影響で、顎が開いている状態になりやすいです。顎が開いていると、逆に飲み込みの運動が阻害され、誤嚥しやすくなってしまいます。
顎が開いた姿勢の例


これらはとても普通のことに思えるかもしれませんが、高齢で要介護レベルだとこの状態がキープできていないことが多いです。上記の基本姿勢を意識すると、食物がよりスムーズに食道へと進むための道筋を確保でき、誤嚥のリスクを大幅に減らします。
また、姿勢以外にも、一口ごとにゆっくりとよく噛むことなども重要です。この姿勢を習慣化することで、より安全な食事が実現するでしょう。
椅子の姿勢維持を補助するアイテムも重要


高齢で筋力が弱ってきていたり、耐久性が低い場合は姿勢の維持が難しいこともあります。食事が進むにつれてどんどん体が傾いたりします。
そんなときにはクッションなどのアイテムで姿勢維持を補助しましょう。姿勢の維持を補助するためのアイテムを選ぶ際には、利用者の体格に合わせたものを選ぶことが大切です。
姿勢補助の例
- 椅子の背もたれと背中の間にクッションを入れる
- 座布団で床やテーブルとの高さを調整する
- 踏み台を使って足が着くようにする
姿勢を安定させるためには、例えば椅子の背もたれとの間にクッションを入れたり、足が床に届かない場合には踏み台を用意したりします。



意外かもしれませんが「踏み台」は多くの病院やデイサービスなどでも使用されています。足がついていないと、姿勢が崩れやすいだけじゃなく、飲み込みのチカラも発揮されづらいんです。
踏み台は厚めの週刊誌(ジャンプとか)を重ねて好きな高さにして、ガムテープなどでグルグルと巻くなどして作れます。
このようなアイテムをうまく使えば姿勢の安定性はアップします。
ベッドで食事する際の姿勢


ベッドで食事をする際も、食べやすい姿勢の基本的なポイントがあります。
ベッドで食べる際の姿勢のポイント
- 頭側のベッド角度は45〜60度位(自分で食べる場合)
- 足側のギャッジアップも出来るタイプなら10 〜15度程度上げる(ズリ下がり防止)
- 足元に硬めのクッションなど置いて踏む(姿勢を安定させる)
- 顎は軽く引けるように(首が安定しないときはクッションを使う)
椅子で食べる際とは大きく勝手が違います。
特に注意したいのは、だんだんと体が下にずり下がってくるパターンです。ずり下がりの予防としては足側のギャッジアップを少し上げておく方法が一般的。足側がギャッジアップできないベッドでは、膝の下にクッションを置いてずり下がりを予防したりもします。
また、左右に体が倒れてくる場合も、クッションで支えたりします。対象者の体の特徴によって、臨機応変に対応することが重要です。
薬の飲み方にも注意!
薬を飲む時に上を引く人がいますが、これも良くない姿勢です。実は、いざ「飲み込むぞ」という時には、顎を軽く引くべきです。その方が喉通りが良くなります。
薬の飲み方については別記事で解説しています


高齢者にとって安心な食事環境を整えるポイント


高齢者が誤嚥を予防しつつ安全に食事を楽しむためには姿勢も重要ですが、適切な環境づくりも欠かせません。
まずは食事をとる環境を整える
高齢者が食事を取るための環境を整えるには、以下のようなポイントが重要です。
食事をとりやすい環境
- 姿勢を維持しやすい
- 道具が使いやすい
- 食事を認識しやすい
- 食事に集中できる
最初に考慮すべきは、食堂やダイニングの椅子やテーブルの高さです。これは姿勢にも関連してきますね。
椅子は座りやすく、背もたれがしっかりしているものを選び、テーブルの高さも適切であることが重要です。座った際に、膝と股関節が直角になるように椅子の高さを調整し、足裏がしっかり床に触れるようにしましょう。
食事中には明るい照明を確保し、視界をクリアに保つことも大切です。
食事に集中できるかどうかも重要で、テレビなど注意が逸れるものは無いほうが良いです。余計な環境音が少なく、落ち着いた雰囲気の方が食事に集中しやすくなります。
介護用の箸やスプーンなども検討する
箸やスプーンなどが使いづらい場合は、介護用の食具も検討しましょう。持ちやすく掴みやすいデザインの食具を使用すると無理な動きをしないなので、姿勢の崩れやすさも予防できます。
介護用のスプーンやコップ、お皿など用途に合わせて選びましょう。
介護用の箸やスプーンについては別記事で解説しています




正しい姿勢と食事で楽しく安全な食事を


誤嚥予防には、正しい姿勢の維持と食事環境の整備が重要です。食事中に姿勢を意識し、毎日継続することで、楽しく安全な食事が可能になります。また、柔らかく、食べやすい料理を工夫して提供することで、安心して食事を楽しめます。
皆さんの日常生活にちょっとした工夫を加えるだけで、大きな安心をもたらすことが可能です。言語聴覚士としても、こうした誤嚥予防のサポートを続けていくことを願っています。



